ナム

「バウ!」

 あれから二日間、キエンは枝を集めていた。

「バウ!バァゥゥゥ!」

 小屋の横で大量に放置された大小バラバラの枝をかき集め、蔦で束ねる。何百本と集めた枝をまとめるが大した大きさにならず、先の見えない作業になる事を悟った。

「果てしねーな」

 作業を中断してその場に寝転がるキエンにクウは飛びつき顔面を舐め回した。

「やめろ、おいやめろって!」

「バウバウ!」

 やめるどころか激しさが増すクウを押し退け、休憩するのを諦めキエンは早々に立ち上がる。

 甲高い鳥の鳴き声が周囲に響いた。

「……やるか」

 キエンは足りなくなった材料を集め直すことにした。その前に、クウの目の前に拾い上げた枝を差し出し、両手を大きく広げた。

「これが枝だ。デカイのを大量に集めてくれ、わかったか?」

「バウ!!!!」

「よし、行ってこい!」

 大きく吠えたクウの腰を叩くと勢いよく林の中へ突っ込んで行った。キエンは周辺に散らばる枯枝を拾い終えると、林へ入った。

「これも使えそうだな」

 いくら拾っても減る様子のない枝を次々に集める。

 両脇に抱え込むほど枝を集め、キエンは小屋へ戻った。林を抜けると、小屋の前に枝を投げる少女とそれを追いかけるクウの姿があった。エプロンをした少女がキエンの方へ振り向き手を振っている。

 ナムだ。

 ナムが投げた枝にクウが走り出す。拾うと一直線にナムの元へ戻り、枝をくわえたまま尻尾をブンブン振ってナムを見つめている。

 バキッ!

 クウが咥えている枝が折れた。足元を見てみると、折れて使えなくなった枝が散乱していた。キエンはその上に拾ってきたモノをドサッと置き、全身の汚れをはたき落とす。

「ここで何してんだ?」

 キエンはクウの頭をワシャワシャ撫で咥えた枝を取り上げると、思いっきり遠くへ投げた。思いのほか飛んだ。

「てかよくここがわかったな?」

「最近見かけないからググに聞き出したのよ!」

 ナムは話しながら、膝下においてあるバスケットを持ち上げ、それをキエンの目の前に差し出した。

「お腹空いてるかなって思って!」

 キエンはそれを無言で受け取った。上に被せてある布を外し中を確認する。

 トマトのスープとパンが数個入っていた。しかもまだ温かい。

「いいの?」

「勿論、早くしないと冷めちゃうわよ」

「おう……ありがとう」

 キエンは小さく礼をしその場に座った。

 バスケットを地面に置くと早速中身を取り出した。パンをちぎり、スープをすくいながら食べはじめた途端、横から視線を感じ、目だけでそっと確認をする。するとクウがよだれを垂らしながらじっと見つめてきていた。しかも少しずつ近づいてくる。一つパンをやると勢いよく飛びついた。キエンも負けじと一気に飲み干した。

「ゲホッゲホッ!!」

「ゆっくり食べなさいよ」

 治まらない咳に胸を叩き、キエンは何度も頷いた。ナムはクスッと笑い、空になったバスケットを拾い上げ、横にいるクウの頭を撫でた。

「ふぅ〜……なんだもう帰るのか?」

「そうよ、お店の事があるもの。また明日来るわ!」

「おう、またな」

「またね!」

 ナムは振り返ると小走りで町の方へ戻っていった。林の中へ入ってしまう寸前、キエンは大きな声で呼び止めた。

「ナム!」

 ナムは立ち止まりこちらを振り返る。

「なーにー?!」

 キエンは思いのほか大きな声が出てしまい、ナムの足元を見たまま、少し黙る。そして顔に視線を戻した。

「いや、あの……ごちそうさま!」

「また明日ねー!」

 笑っている気がした。大きな声でナムがそう言うと、高らかに手を上げ大きく振ってくる。キエンもヒョイと軽く手を上げた。そうしてナムはお店へ戻ってしまった。

 少しの間、キエンは林を見つめ、動けなかった。

 一つ深呼吸をするとキエンは小屋の中へ戻った。昨日事前に用意しておいた藁の布団の感触を確かめ、寝転がる。

「案外いけるな……ここに住むのもアリか」

 頭の後ろで手を組み、崩れた天井から空を眺める。クウは余った藁の上に乗ると、その場でクルクル回り、何度も足踏みをした末に伏せて大きな欠伸をした。屋根が無いのも悪くないなと思いキエンは目を閉じた。

 その晩は隙間風で何度も起きることになった。

――――翌朝

 何かが近づいて来る音がする。足音?

(バウ!バウッ!)

 近くでクウの鳴き声がする。キエンは目を覚ますと、起き抜け騒がしいクウの頭を撫で落ち着かせる。

「おはよ、眠いな」

「バウバウ!」

 抜けた天井を見つめる。クウは扉の向こう側へ向かって吠えるのをやめない。

「どーした、朝から騒がしいな」

 少しすると、外から聞き覚えのある声がこちらを呼んでくる。

「おーい、キエン居るか~?」

 寝ぼけながらも立ち上がり、よろよろと扉に向かうと、ゆっくり扉を開けた。

「居った居った」

「おう、ググか」

「バウ!」

 目を擦りながら小屋を出たキエンは大きく伸びをする。

「おそようさん。懐かしいのお」

 キエンは首を傾げた。

「気にするな、ところでこれで完成なのか?」

 背後を一瞬見て、正面に視線を戻すとキエンは大きく頭を振った。

「全然おわってねーよ」

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